【切手デザイン】伝説のスイス刺繍切手を徹底解説

世界初の刺繍切手は、ザンクト・ガレンで開催された国内切手展<NABA2000>を記念して、初日の2000年6月21日にスイス郵政公社から発行されました。

今日は世界の切手の中でも驚きに満ちた1枚の切手について探求します!

目次

ザンクト・ガレンについて

ザンクト・ガレン(St Gallen)は、東スイス地方の主要都市でドイツとの国境でもあるボーデン湖に接しています。

スイスで最も標高が高い都市のひとつで、ザンクト・ガレン修道院は1983年にユネスコの世界遺産へ登録されています。

St.Gallen,Abbey District/myswitzerland.com

古くからテキスタイル(繊維・織物)産業で栄え、8世紀頃に麻・亜麻織物産業が始まり、遠隔地貿易が始まった12世紀初頭に活発化しました。

18世紀には綿工業が主流になり、19世紀になると精緻な刺繍やレースの産地として広く知られるようになりました。

1878年に開館した「ザンクト・ガレン織物博物館」は世界的に有名です。

St.Gallen, Textile Museum Exhibition/myswitzerland.com
St.Gallen, Textile Museum Exhibition/myswitzerland.com

スイスの刺繍産業について

スイスの刺繍には長い伝統があります。

1900年頃のスイス東部は刺繍が最も重要な産業でした。人口の5分の1以上が刺繍で生計を立てていたそうです。

brochure/ Swiss Post 2000/6/21

スイスの刺繍は18世紀末に手工芸品として最初の全盛期を迎えましたが、流行の変化とともに初期のブームはいったん過ぎ去りました。

その後、アメリカ市場の発展と新しいサテンステッチ技法の導入により1820年以降に新たなブームが始まりました。

刺繍の需要は高まりましたが、手刺繍の技術者は不足していたことが機械の開発を促しました。

刺繍切手がスイスで発行された理由

刺繍で有名な町での切手展ということもあり、 地場産業の宣伝と育成、またスイス郵政150年記念に変わり種切手を発行したいという郵政公社の要望と合致して、豪華な発想の切手が企画されました。

切手デザインは、ペーター・ホステットラー氏

スイス・2000年・ザンクトガレンの刺繍

ザンクト・ガレンにあるビショフ・テキスタイル(Bischoff Textiles)社でテキスタイルデザイナーとして働くペーター・ホステットラー(Peter Hostettler)がデザインを担当しました。

ホステットラー氏は18世紀のイタリア、フランスの刺繍や20世紀の機械刺繍の模様などを参考にして、独自のデザインを考案しました。

3つのデザインインスピレーション

ベネチアのニードルレース Needle lace

brochure/ Swiss Post 2000/6/21

ニードルレースは1700年頃にヴェネツィアで作られ、首や手首に巻く装飾として使われていました。

ニードルレースの編み方は、曲線の縁取りに多数のピコット模様が描かれています。

縁の背景に小さなバラが描かれていることから、「ポワン・ド・ネージュpoint de neige」または「プント・ロゼリーノpunto rosellino」と呼ばれています。

ヴァランシエンヌレース Valenciennes lace

brochure/ Swiss Post 2000/6/21

ヴァランシエンヌレースはボビンレースの一種です。

「Valencienne」はフランスのノール県にある人口約4万人の町名で、この地方で多く作られていました。

18世紀には女性のドレスだけではなく男性のファッションにも取り入れられていました。

機械刺繍とコンビネーションレース

brochure/ Swiss Post 2000/6/21

コンビネーションレースは1930年代に流行しました。シフリ刺繍機を用いて複雑な工程を経て制作されます。

上部には機械で作られたヴァランシエンヌボビンレース、下部には機械刺繍が用いられました。

刺繍切手の素材

刺繍切手には上質な生地が使用されましたが、上質という情報だけでその組成は製造元により秘密にされています。

この生地にサテン織りの糸で刺繍しています。

brochure/ Swiss Post 2000/6/21

糸は、刺繍業界向けに特別に製造されたポリエステル100%で、優れた耐裂性を備えています。

引張強度を確保するため、0.78/2という太さのポリエステル100%の糸が選ばれました。

デザインが映える美しい青色も刺繍切手専用に染められました。

切手はシールタイプ(セルフ糊)で粘着コーティング剤もこのスタンプのために特別に開発されました。

採用されたマルチコーティング素材は、切手を封筒から剥がす際にコーティングの跡が残らない特別な素材でした。

刺繍切手の製造工程

スイスの刺繍切手は、製造と原材料の両面で新開発の技術を採用しました。

刺繍工程はこの世界初の製品の製造に合わせて最適化され、最新技術を搭載した刺繍機が使用されました。

  • 生地を約10メートルの長さの細片に裁断する
  • 細片2枚を刺繍機に張る
  • 340本の針それぞれが1つのスタンプを刺繍する
  • 生地がいっぱいになるまで、列ごとに刺繍を施す
  • 刺繍工程の後、つなぎ糸を除去する
  • 数段階に分けて粘着剤を塗布する
  • スタンプを生地から切り出す

刺繍機はSaurer Pentamat 2040で、毎分200回転で稼働、340本の針が同時に稼働しています。

1回の刺繍工程で、340個のスタンプが同時に製作されました。

brochure/ Swiss Post 2000/6/21

繊維技術の特性でもありますが、刺繍は製造工程の違いによりわずかに差異が生じます。

そのため、刺繍切手はそれぞれが少しづつ異なりユニーク(唯一)のものになります。

できあがった刺繍切手の工程の最後には、スイス郵便公社の品質検査があります。

このようにして通常よりも遥かに手間と時間のかかる切手が発行されました。

スイスの刺繍切手の種類

単片の他、豪華な縁取り付きの小型シートとFDCが発行されました。

スイス・2000年・ザンクトガレンの刺繍
スイス・2000年・ザンクトガレンの刺繍・小型シート
スイス・2000年・ザンクトガレンの刺繍・FDC

スイス郵政公社によると、刺繍切手は制作に時間がかかるため限定発売で発行枚数は未発表でした。

スイスの刺繍切手まとめ

今回は2000年に発行されたスイスの刺繍切手を深掘りしてみました。

2000年という記念すべき年に切手蒐集家を驚かせた豪華な刺繍切手

ポスティオ・マルシェのオープン後、まもなく存在を知り、世界の切手の幅広さに感動した記憶があります。

スイスはこの切手で刺繍をやりきったたのか?その後刺繍切手を発行していませんが、オーストリアとリヒテンシュタイン等が後に続いています。

刺繍切手をまとめたこちらの記事もぜひご覧ください!

(ご紹介した切手の一部は個人コレクションです)

ポスティオ・マルシェ・刺繍切手のページ 

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