
2025年11月22日〜2026年2月1日まで世田谷美術館で開催している『つぐ minä perhonen』を観てきましたのでご紹介します。
ミナ ペルホネンの思想を紐とく展覧会
ミナ ペルホネンとは
「ミナ ペルホネン(minä perhonen)」は、1995年にデザイナー・皆川明氏によって設立されたブランドです。ブランド名の「minä」はフィンランド語で「私」、「perhonen」は「蝶」を意味し、身につける人の内面や日々の営みに寄り添うデザインを象徴しています。2025年に30周年を迎えたブランドは、流行に左右されない普遍的な創造性と手仕事への敬意を軸に、服やテキスタイル、インテリアプロダクトを生み出してきました。

展覧会構成と見どころ
「つぐ minä perhonen」展は世田谷美術館の1階および2階展示室を使い、ブランドの歩みと思想を多層的に紹介しています。展示は単一の年代記ではなく、テーマや素材、技術との対話という観点から構成されています。
6つのエリアを通して「つぐ」という行為の諸相を感じ取ることができます。

chorus テキスタイルの声

会場に足を踏み入れるとまず目に入るのは、多様なテキスタイルの集合です。
tambourine、geometry、ripple、creature、flower、botanical、bird、sky、prism のグループで並んだテキスタイルは圧巻です。
minä perhonenのデザインは、繊細な図案、色彩の重なり、そしてミニマルでありながら生命感に満ちた有機的なモチーフが特徴です。
これらは、すべてデザイナーの手作業や職人の技術によって形作られ、布というかたちで私たちの日常へと届けられてきました。
このエリアでは、柄の原画や織り見本とともに布そのものが展示され、その表情豊かな質感や色合いが、光と影の変化とともに語りかけます。
1995年のブランド設立からの30年間で、生み出されたテキスタイルの図案は1,000柄以上。一つのデザインが次のアイデアとなり、集合体としてミナ ペルホネンの世界を形成している《引用:TSUGU minä perhonen 図録》

SCORE 服という物語
テキスタイルが布であるとすれば、服はその布に命が吹き込まれたかたちです。
ミナ ペルホネンの服飾作品は、縫製やシルエット、素材選びに至るまで細部に思想が宿り、そのすべてが身につける人と時間を分かち合うものとして設計されています。
これまで発表された代表的な服飾作品が並び、素材感や細やかな手仕事を近くで観察することができます。


想いがアイデアとなり、手が動きデザインとなり、原画をもとにテキスタイルとなる。それらは様々なプロダクトデザインや素材へと広がっていく。ミナ ペルホネンのクリエイションの根幹であるテキスタイルとそのプロセス。それはオーケストラの譜面に並び音符の連なりのようにも見える。《引用:TSUGU minä perhonen 図録 P26》

ensemble テキスタイルを支える3つの技術
刺繍、プリント、織。
ミナペルホネンのテキスタイルづくりの中心にある 3つの技術は、それぞれブランドと信頼関係を結ぶ、国内の工場が担っています。
そこでは、デザイナーが手作業で描いた図案を、工場の職人が読み解き、デザイナーとの対話と試行錯誤を幾度も重ね、技術を駆使してかたちにしていきます。

すべての工程が手作業では、多くの人に製品を届けることはできませんが、単純な大量生産では、ミナペルホネンのデザインの魅力を伝えることは困難です。
わずかな線のゆらぎ、微妙な色彩の重なりを再現する、機械と手仕事のちょうどよい関係性を築くために、さまざまな工夫を重ねます。
機械と道具、そして人の想いが調和をもってアンサンブルを奏でるように
このコーナーではそれぞれの工場の風景を動画とともに紹介しています。


remiix「つなぐ」技術と思考
ミナ ペルホネンは、布や服を生み出すだけでなく、使い続けること、修繕すること、次の世代へ手渡すことにも重きを置いてきました。
本展の一角には、リメイクや修繕のプロジェクト作品も展示されています。
これは単なる保存や修復ではなく、服そのものが持つ物語を新たに膨らませる営みです。


展示空間と時間の共有
世田谷美術館という空間も、「つぐ」というテーマに合っていると感じました。
内井昭蔵設計による低層分散型の建物は、周囲の自然と調和し、訪問者が屋外階段やブリッジを通りながら展示に向かう体験を提供します。

四季の変化とともに移ろう砧公園の景色は、ミナ ペルホネンの色彩感覚や自然観とも共鳴し、展示鑑賞を単なる視覚体験から、身体全体で感じる時間へと引き上げています。

まとめ
ミナ ペルホネンのものづくりは、単に服や布を作ることに留まりません。
それは「日常を豊かにする普遍性の追求」であり、時代や流行に左右されない価値を問い続ける営みです。
皆川明さんが「せめて100年つづくブランド」を目指してきたという言葉には、ものを長く使い、愛し、次世代へと受け渡していくことへの深い願いが込められています。
この展覧会は、単なるテキスタイルブランドの回顧展ではなく、私たちがものを選び、使い、暮らしに寄り添わせていくことの意味を問い直す場でもあります。
展示を一歩離れて振り返ると、「つぐ」ことの多義性、継承、つなぐ、注ぐ、告げるが、さまざまなかたちで現れ、問いを投げかけてきました。
「つぐ minä perhonen」は、服という身近な存在を通じて、時間、関係性、そしてものへの深いまなざしを提示する展覧会です。
日常の営みと芸術が出会うこの場所で、ぜひ「つぐ」という体験を感じてみてください。
展覧会名:つぐ minä perhonen
会期:2025年11月22日(土)〜2026年2月1日(日)
会場:世田谷美術館 1・2階展示室(東京都世田谷区砧公園1-2)
開館時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(11月24日・1月12日は開館、11月25日・1月13日・年末年始休館)
観覧料:一般1,700円、65歳以上1,400円、大高生800円、中小生500円、未就学児無料

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