
2026年の東京都庭園美術館の「建物公開」では通常入室できない「ウィンター・ガーデン」を見学することができました。
『ウィンター・ガーデン』とは
アール・デコ様式を纏った旧朝香宮邸は、1933年の竣工当時から変わらぬ「住まいの美」を今に伝えています。
今回の展覧会で公開されているのが、建物最上部に設けられた「ウィンター・ガーデン」──温室として設計された、ガラスに囲まれた特別な空間です。
赤いじゅうたんの階段を上った先にあるのは

ウィンター・ガーデンへは、館内の階段を上っていきます。
深みのある木製の手すり、赤いじゅうたんが敷かれたなだらかなステップ。

手すり壁にあしらわれた金属の透かし彫りはアール・デコらしい幾何学模様で、誘われるように足が進みます。
モノクロームの市松に、モダンな赤い椅子

床も、壁の腰より上の部分も、あざやかなモノクロームのチェッカーボード。
床の人造大理石と腰壁の国産大理石は、素材が違うにもかかわらず見た目にはほとんど区別がつきません。
そのことが、当時の職人技の高さを証明しています。

窓の向こうには庭園の緑が広がり、光がたっぷりと室内に降り注いでいます。
東京の都心にいることを忘れそうになるほど、明るく、清々しい空間です。
空間に静かに置かれているのがマルセル・ブロイヤーのデザインのイスとテーブルです。
クロームメッキのスチールパイプフレームに、深いえんじ色のシートが張られたアームチェア。
この椅子こそが、ウィンター・ガーデンのもうひとつの主役です。
マルセル・ブロイヤーの椅子と、昭和7年の展覧会
この椅子には、面白い来歴があります。
デザインしたのはマルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer)。バウハウスで学び、のちに家具デザインの革命を起こした建築家です。
スチールパイプを家具に用いるという、当時としては画期的な発想から生まれた彼の椅子は、20世紀モダンデザインの象徴として現在も世界中で愛されています。
これを購入されたのは、この邸宅の主人だった朝香宮鳩彦王です。
1932(昭和7)年5月、東京・松坂屋で開催された「新興独逸建築工芸展」──バウハウスをはじめとするドイツの新しいデザインを紹介した展覧会で、鳩彦王は自らこの椅子を選んで購入されたといいます。
当時の椅子の現在の所在は不明ですが、現在ウィンター・ガーデンに置かれているのは後年美術館が入手した同型の複製品です。
それでも、バウハウスの椅子が黒白の市松模様の床の上に座を占めているこの光景は、90年以上前に暮らした人々の審美眼と、遠く離れたドイツのデザイン運動が交差した場所として心を動かされます。
ガラス越しに都会の緑

ウィンター・ガーデンはもともと、植物を育てるための温室として設計されました。
花台や水道の蛇口、排水口まで備え付けられており、当時は本当に植物が育てられていたそうです。
ガラスに四方を囲まれたこの部屋は、季節を問わず日当たりがよく、冬でも植物が育つ環境を保てるように計算されていました。
今は植物のかわりに、窓の外の庭園の木々が「緑」の役割を担っています。
格子状の窓枠を通して見える松の木、その向こうにビルのシルエット。
東京の都心にいながら、ちょっとした別の時間を過ごせるような場所です。
アール・デコの装飾と、バウハウスの家具と、光と緑。異なる時代とデザインの思想が、ひとつの小さな部屋のなかで静かに共存しています。
ウィンター・ガーデンは「住まいの美」という東京都庭園美術館のテーマが、ミニマルに、最も贅沢なかたちで結晶した空間だと思います。
ここに座って、窓の外を眺めていたい。そう思わせてくれる場所でした。ぜひ訪れてみてください。
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